親から子への財産承継、相続と贈与の違いとは?どちらが有利かケース別に解説2025.12.04

はじめに
親の高齢化や自分自身の老後を意識し始めると、「そろそろ終活を考えた方がいいのかな」「相続と贈与どちらが得なのだろう」と悩む方が増えてきます。
相続と贈与は、いずれも財産を移転するための制度ですが、「いつ」「どのように」財産を移すかによって、かかる税金の種類や負担額、必要な手続きが大きく変わります。選び方を間違えると、想定よりも税負担が重くなってしまったり、後から現金が足りずに不動産を手放さざるを得なくなったり、家族間のトラブルにつながってしまう虞れもあるのです。
最終的にどちらを選ぶべきかは、財産の規模や家族構成、今後の生活設計によっても変わります。大分市周辺で具体的な相続税・贈与税対策を検討中の方も、ぜひ本記事を一つの参考にしていただきながら、ご家族に合った財産承継の形を考えてみてください。
相続と贈与の違いとは?制度・税率・タイミングを徹底比較
相続と贈与は、どちらも「財産を引き継ぐ制度」という点では共通していますが、税率や発生するタイミングなど、負担すべき税金の仕組みが大きく異なります。
相続とは?亡くなったときに自動的に始まる財産の承継
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利・義務を、配偶者や子どもなどの相続人が引き継ぐことをいいます。民法上は、被相続人が亡くなった瞬間に、遺言や法律(法定相続分)にしたがって相続が発生するとされています。誰かが「相続します」と申し出て初めて始まるのではなく、「死亡」という事実をきっかけに自動的にスタートする仕組みです。
ここでいう「財産」には、預貯金や不動産、株式・投資信託といったプラスの財産だけでなく、借入金や未払いの税金などマイナスの財産も含まれます。財産全体の価値を集計し、一定額(基礎控除額)を超える場合に、相続人に対して相続税がかかる可能性があります。
相続税の基礎控除は、現在「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で定められていて、これを超える場合に相続税が発生します。
贈与とは?生きている間に行う財産の移転契約
これに対して贈与とは、生きている人同士で行う「財産の受け渡し」です。民法上は、一方が自分の財産を相手に与える意思を示し、相手がそれを受け取ることに同意することで成立する契約とされています。
たとえば、親が子どもの名義の口座に教育費としてまとまった資金を振り込む、子や孫に毎年決まった額の現金を渡す、自宅の持分を生前に譲る、といったケースが典型例です。
一方で、贈与には贈与税がかかる可能性があり、その年に受け取った贈与の額が一定額を超えると、受け取った側に申告と納税の義務が生じます。
相続税と贈与税の違い|課税されるタイミングと税率の考え方
相続によって財産を受け継いだ場合には相続税が、贈与によって財産をもらった場合には贈与税がかかります。どちらも「財産の移転に対してかかる税金」ですが、次のような違いがあります。
まず、課税の対象となるタイミングが異なります。
相続税は、亡くなった時点で被相続人が持っていた財産をベースに、「トータルでいくら保有していたか」を基準に計算します。一方、贈与税は原則として1月1日から12月31日までの1年間に、同じ人からいくら贈与を受けたかで判定します(暦年課税の場合)。
また、税率にも違いがあります。
相続税も贈与税も金額が大きくなるほど税率が高くなる累進課税ですが、贈与税の方が相続税よりも高い税率が設定されており、単純に「毎年多額の贈与を繰り返す」だけでは、かえって税負担が重くなってしまうケースもあります。
生前贈与と相続、結局どちらが得?ケース別の選び方
「相続と贈与のどちらが得か」は、財産の額や種類、ご家族の状況によって答えが変わります。一律に「生前贈与が有利」「相続の方が有利」とは言えないからこそ、代表的なケース事に考え方の目安を知っておくことが大切です。
ケース1:今すぐお金が必要なら生前贈与で早めに渡した方がお得
教育資金や結婚資金、住宅取得の頭金など、「子どもや孫が今まさに必要としているお金」の場合は、生前贈与で早めに渡したほうが良い場面が多くなります。
なぜなら、教育資金や結婚・子育て資金、住宅取得などについては、一定の条件を満たせば非課税枠が使える制度も用意されているからです。「必要なタイミングで必要な分を贈与する」という発想も、有効な選択肢のひとつです。
ケース2:将来値上がりしそうな資産は生前贈与を検討したほうがお得
株式や投資用不動産など、将来値上がりが見込まれる資産については、早めに贈与しておくことで、将来の値上がり分を子ども世代に移しておけるケースがあります。評価額が低いうちに移しておけば、その後に生じた値上がり分については、原則として親ではなく子どもの持ち分として扱われるためです。
もっとも現在の制度では、生前贈与の多くが相続税の計算上「一定期間さかのぼって相続財産に加算される」仕組みになっており、単純に贈与をすれば必ず節税になるとは限りません。
贈与の時期や金額、他の財産とのバランスによって有利・不利が変わるため、「値上がりが見込まれる資産があるから、とりあえず贈与」というよりは、相続全体の試算の中で位置づけを検討することが重要です。
ケース3:基礎控除内や財産が自宅中心なら相続でまとめた方がお得
親の財産の総額が相続税の基礎控除額の範囲内におさまりそうな場合や、自宅と預貯金が中心で特別に大きな資産はないといった場合には、むやみやたらに生前贈与を繰り返すよりも、相続でまとめて承継した方がお得になるケースも多くあります。
たとえば、自宅や事業用の土地については、相続のときに「小規模宅地等の特例」という大きな評価減の制度を利用できる場合があります。要件を満たせば、自宅土地の一定部分(330㎡まで)について、相続税評価額を最大80%まで減額できる制度です。
また、配偶者が相続する場合には「配偶者の税額軽減」があり、配偶者が取得した財産が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い方までは、相続税がかかりません。夫婦間は相続でまとめることとし、その後の世代への承継をどうするかを別途検討するという考え方もあります。
ケース4:トラブルが生じそうなら税金だけでなく家族関係なども含めて判断
生前贈与と相続のどちらが得かを考えるとき、多くの方が「税額の多い・少ない」に目を向けがちです。しかし、トラブルが生じそうなケースでは税金だけでなく、家族関係や不動産の管理のしやすさ、公平感への配慮なども含めて判断する必要があります。
たとえば、生前に一部の子どもだけに不動産を贈与すると、将来の相続の場面で他の相続人との不公平感からトラブルになってしまうことがあります。逆に、相続まで何も対策をせずに放置しておくと、相続人が遠方に分散していて手続きが進まない、固定資産税だけがかかり続けるといった、いわゆる「不動産問題」が生じることもあるでしょう。
何を重視すべきかについてはご家庭ごとに異なりますので、税額のシミュレーション、専門家への相談などとあわせて、家庭内で話し合う場を持つことも大切です。
相続・贈与の手続きの流れと必要書類|申告期限と注意点
相続や贈与は、「制度として知っている」だけでは不十分で、実際に発生したときに、いつまでに・どこへ・どんな書類を出すのかを押さえておくことが大切です。ここでは、相続税・贈与税それぞれの基本的な手続きと、実務で起こりやすい注意点について解説します。
相続が発生したときの流れと申告期限
相続が発生した場合、まずは死亡届の提出や葬儀、公共料金や口座の名義変更など、生活面の手続きが続きます。そのうえで、相続に関する主な流れは次のとおりです。
① 相続人・相続財産の確認(戸籍謄本の収集・財産調査等)
② 遺言書の有無の確認/遺産分割の話し合い
③ 財産評価と相続税がかかるかどうかの試算
④ 相続税の申告・納付(必要な場合)
⑤ 不動産の相続登記や預貯金の名義変更など
相続税の申告が必要な場合、期限は「相続があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。期限までに申告と納付を済ませなければ、延滞税や加算税がかかることがあります。
必要な書類としては、
・被相続人と相続人の戸籍
・住民票関係書類
・遺言書(ある場合)
・遺産分割協議書
・不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書
・預貯金や有価証券の残高証明書など
相続税申告が必要かどうかも含め、早めに財産の全体像を把握しておくことが大切です。
贈与税の申告・納付の流れと必要書類
生前贈与を行い、その年に受け取った財産の額が基礎控除額(暦年課税であれば110万円)を超える場合には、贈与を受けた人が贈与税の申告・納付を行います。申告期限は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。
必要な書類としては、
・贈与契約書
・財産の内容が分かる資料(通帳の写し、不動産の固定資産評価証明書など)など
相続時精算課税を選択する場合には、「相続時精算課税選択届出書」やそれに必要な添付書類も併せて提出する必要があります。
特に、親族間の贈与では、「口頭で渡しているだけ」「通帳から親が直接支払っていて名義だけ子ども」など、あいまいなケースがほとんどです。後になって税務署から贈与の有無や金額について確認を受けることもあるため、できる限り書面や記録を残しておきましょう。
手続きで起こりやすいトラブルと税理士に相談するメリット
相続や贈与の手続きでよくあるトラブルとしては、次のようなものがあります。
・相続税の申告が必要かわからず申告期限を過ぎてから気づいた
・生前贈与をしていたのに相続税の計算から漏れていた
・話し合い先延ばしにしているうちに相続が重なって話がまとまりにくくなった
・一部の相続人だけが情報を把握していて他の相続人の不信感やトラブルにつながった
こうした問題は、一度こじれると家族関係に長く悪影響を残してしまうこともあります。
一方、税理士に相談することで、トラブルを対策・回避することが可能です。相続税・贈与税がかかるかどうかの判断、必要な手続きの整理、申告書の作成・提出まで一連の流れをサポートしてもらえるメリットがあります。
また、不動産や自社株など、取り扱いが難しい財産を適切に評価することは、単に税額だけでなく相続人同士の公平感にも関わる問題です。特に、複数の不動産や事業用資産がある場合はトラブルが生じやすいため、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
相続と贈与の違いと選択ポイントまとめ|賢い制度活用で将来の財産承継対策を
相続と贈与は、「いつ」「どのように」財産を移すかによって、かかる税金や手続き、将来の家族関係への影響が大きく変わります。どちらが有利かは、財産の総額や内訳(自宅・土地・預貯金・株式・自社株など)、相続人の人数や年齢、今後の生活資金の見通し、さらには「家族の納得感」や「不動産管理のしやすさ」といった要素まで含めて総合的に判断すべきです。
大分市周辺で相続や生前贈与を検討されている方は、「相続と贈与どちらを軸に考えるべきか」「今から何をしておけばよいか」を、まず一度当事務所にご相談ください。相続税・贈与税の試算や、不動産や事業用資産を含めた承継プランのアドバイスなど、ご家族にとって無理のない、安心感のある財産承継をサポートさせて頂きます。





