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相続税の基礎から節税対策まで徹底解説2024.07.31

1.相続税の基本概要と対象者

1-1.相続税のかかる人は2015年から倍増、東京の場合は2021年でおよそ5.5人に1人

2016年末、国税庁から2015年分の相続税の申告状況が公表された。これは、2015年中に亡くなられた相続や遺贈等により財産を取得した人についての相続税の申告状況の概要を示すものであり、2015年開始の相続税改正の影響の把握できる速報性の高い資料として注目される。

その資料によると、相続税の課税対象者は、2015年以降倍増しています。具体的には、その年に亡くなった人のうち、相続税の課税対象となった人の割合(相続税課税割合)が増加しています。東京都の場合、2021年にはおよそ5.5人に1人が相続税の課税対象となっているようです。相続税は基礎控除を考慮して計算されますが、東京など地価の高い地域では、土地付き一戸建て住宅をご両親が保有していれば相続税の課税対象になる可能性が高くなります。

1-2.相続税はいくらからかかる?基礎知識や金額について解説

相続税は、正味の遺産額から基礎控除を差し引いた課税遺産総額がプラスの場合にかかる税金です。 基礎控除は、相続税を計算する際に遺産総額から差し引く控除額で、法定相続人の数に応じて決まります。

2024年の基礎控除は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算されます。具体的な金額は以下の表をご参照ください。

課税価格子供1人子供2人子供3人
3,600万円以下000
4,000万円000
5,000万円40100
6,000万円906030
7,000万円16011380
8,000万円235175138
9,000万円310240200
1億円385315263
1億5,000万円920748665
2億円1,6701,3501,218
2億5,000万円2,4601,9851,800
3億円3,4602,8602,540
3億5,000万円4,4603,7353,290
4億円5,4604,6104,155
5億円7,6056,5555,963
6億円9,8558,6807,838
7億円12,25010,8709,885
8億円14,75013,12012,135
9億円17,25015,43514,385
10億円19,75017,81016,635

基礎控除を超えた分の相続財産が課税対象となり、相続税額が発生します。具体的な金額は個々のケース毎に異なりますが、専門家のアドバイスを受けながら計画的に相続に向けて準備することをおすすめします。

1-3.相続税の計算方法と適用される税率

相続税は、相続や遺贈で取得した財産の課税価格から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に相続税の税率をかけて算出します。税率は一定ではなく相続する遺産の額に応じて高くなっていく累進課税制度となっており、相続人の関係や相続分によって異なり、速算表を参照して計算します。

以下は相続税の速算表です:

  • 1,000万円以下: 10%
  • 1,000万円超から3,000万円以下: 15% (控除額50万円)
  • 3,000万円超から5,000万円以下: 20% (控除額200万円)
  • 5,000万円超から1億円以下: 30% (控除額700万円)
  • 1億円超から2億円以下: 40% (控除額1,700万円)
  • 2億円超から3億円以下: 45% (控除額2,700万円)
  • 3億円超から6億円以下: 50% (控除額4,200万円)
  • 6億円超: 55% (控除額7,200万円)

参考までに例えば、法定相続人が妻と子2人である場合、法定相続分に応じて取得した遺産金額を速算表に当てはめて計算します。 課税遺産総額が1億5,200万円とすると、法定相続分に応じる取得金額は、妻が7,600万円、子が3,800万円ずつとなります。これらの法定相続分に応じる取得金額を速算表に当てはめると、相続税の納付総額は2,700万円になります。

2.相続税の控除・特例・制度を活用しよう

2-1.基礎控除以外に使える特例と税額控除

相続税の計算について、基礎控除以外に使える特例や税額控除についてご説明します。

  1. 基礎控除:
    • 基礎控除は、相続で財産を受けるすべての相続人が利用できる控除です
    • 計算式は「3,000万円+600万円×相続人の人数」です。相続人の人数に応じて基礎控除額が決まります
    • 財産総額が基礎控除額を超えなければ、相続税申告手続きは不要です
  2. 6つの税額控除:
    • 贈与税額控除: 過去の生前贈与で贈与税を払った相続人がいる場合に適用されます
    • 配偶者の税額軽減: 相続人の中に配偶者がいる場合に適用されます
    • 未成年者の税額控除: 相続人の中に未成年者がいる場合に適用されます
    • 障害者の税額控除: 相続人の中に障害者がいる場合に適用されます
    • 相次相続控除: 被相続人が過去10年以内に相続税を払っていた場合に適用されます
    • 外国税額控除: 今回の相続で外国でも相続税に相当する税金を払う場合に適用されます
  3. その他に相続税を計算する際に控除できるもの一覧:
    • 死亡保険金・死亡退職金は相続人1人当たり500万円まで控除可能です
    • 借入金・債務は控除可能ですが、住宅ローンは多くの場合控除できません
    • 葬式費用として控除できるのは、通常かかる葬儀前後の費用です

相続税の申告には注意が必要ですが、特例や控除を活用することで納税額を最適化できることを覚えておいて下さい。

2-2.贈与税と相続税の連動制度とその活用法

相続税と贈与税の一体化は、日本の税制改革の一環で議論されています。具体的には、相続開始前の贈与が相続財産に加算される期間を変更することを検討しています。現行の日本の相続税・贈与税の仕組みは次の通りです。

  1. 暦年課税:1年間の贈与額が110万円以下であれば非課税となります。この制度を利用した「暦年贈与」では、毎年少額ずつ贈与することで相続税を節税できます。
  2. 相続時精算課税:相続時に贈与された財産を一括して相続税を計算する方式です。

ただし、この方法では贈与のタイミングによって税額が変動します。

一方、海外では相続税と贈与税を一体化している国もあります。例えば、イギリスでは相続開始前の7年間、フランスでは相続開始前の15年間に贈与された財産も加算されて相続税が計算されます。アメリカでは一生涯にわたって贈与された財産と相続財産の合計額が一定金額を超えると課税されます。今後の改正で、生前贈与には7年内加算ルール(令和6年1月1日より)が更に長期間になる可能性や孫への贈与の対象が変わる等、様々な対策方法が考えられています。

2-3.配偶者や未成年の子供に適用される優遇措置

相続税において、配偶者と未成年の子供には優遇措置があります。具体的には以下の点が該当します。

  1. 配偶者控除(配偶者の税額軽減):
    • 配偶者の税額軽減制度で、被相続人の生存配偶者の老後の生活保障や遺産の形成に対する貢献を考慮した制度です
    • 婚姻の届出をしている配偶者であれば、婚姻期間の長短に関わらず適用されます
    • 内縁関係にある場合は適用されません
    • 配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額うち、配偶者の法定相続分または1億6,000万円のどちらか多い金額までが、相続税の課税対象から除外されます
  2. 未成年者控除
    • 未成年者控除の額は、未成年者が満18歳になるまでの年数につき10万円で計算されます。
    • 年数の計算は、1年未満の期間がある場合でも切り上げて1年として計算されます。例えば、未成年者の年齢が15歳9か月の場合、9か月を切り捨てて15歳で計算し、18歳までの年数は3年となります。したがって、未成年者控除額は10万円×3年で30万円となります。
    • ただし、未成年者控除額が、その未成年者本人の相続税額より大きい場合、控除額の全額が引き切れないことがあります。この場合、未成年者の扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹など)の相続税額から差し引かれます。

未成年者控除は、未成年者の負担を軽減するための制度であり、適用については相続税申告時に考慮されます。

3.相続税対策の必要性と具体的な方法

3-1.相続税を軽減する生前対策のポイント

相続税の生前対策は、亡くなった後ではできない節税対策を実施することで、相続税を減らして財産を残すことを目指します。以下に、特例を活用した7つの生前対策を紹介します。

  1. 配偶者の税額軽減の活用:
    • 配偶者の相続額が法定相続分または1億6,000万円以下の場合、相続税がかかりません
    • ただし、多額の遺産を相続した配偶者が死亡した場合、遺された子供たちの相続税負担が重くなることに注意が必要です
  2. 退職手当金の活用:
    • 被相続人に支給されるべき退職手当金を受け取る場合、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは課税対象です
    • 一定額まで相続税がかからない控除枠を利用しましょう
  3. 生命保険の活用:
    • 死亡保険金を受け取った場合、課税対象になります
    • 死亡保険金受取人の指定や控除枠を上手に活用し、相続税を軽減しましょう
  4. 養子縁組の活用:
    • 養子をとることで相続税の基礎控除額や非課税枠が増えます
    • 相続人の数に制限があるため、注意が必要です
  5. 小規模宅地の特例の活用:
    • 居住用や事業用宅地などがある場合、決められた面積までを80%か50%減額できる特例があります
    • 特例を適用するには相続させる人を決めておく必要があります
  6. 広大地評価の活用:
    • 広大地評価に適用できれば、土地の評価額が最大65%減額されます
    • 生前に土地を分割するなど対策をしておきましょう
  7. 債務控除の活用:
    • 借入金などの負債はマイナスの財産として、相続税額から差し引けます
    • 債務状況の一覧を作成しておくとスムーズに申告できます

3-2.不動産評価額の見直しや遺産分割による節税対策

不動産を活用した相続税対策は、節税の重要な手段の一つです。具体的な方法を含めて解説します。

  1. 不動産の評価方法:
    • 不動産の相続税評価額は、土地と家屋(建物)に分けて評価されます
    • 家屋の評価は固定資産税評価額と同じです。これは市区町村が土地や家屋を評価した価格で、固定資産税などの基準となります。
    • 土地の評価は「路線価方式」と「倍率方式」があります。路線価は国税庁が公表している土地価格で、相続税の基礎となります。
    • 特に人気エリアでは、相続税評価額が公示価格よりも低くなることがあります
  2. 自宅を利用した節税:
    • 自宅の土地建物を所有している場合、評価額が現金で保有するよりも低くなります
    • 「小規模宅地等の特例」を活用すれば、さらに大きなメリットがあります。この特例は一定の面積までの部分について相続税の評価額を減額する制度です。
  3. アパート・マンション経営をする節税:
    • 賃貸に出している場合、不動産の評価額がさらに減額されます
    • 人気エリアでは評価額の減少幅が大きく、相続税対策に有効です

相続税対策は、個々の状況に合わせて検討する必要があります。専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法を選択しましょう。

3-3.相続税専門の税理士や弁護士等へ相談するメリット

相続の相談をする際、専門家を選ぶことは重要ですね。以下、相続税に関する専門家についてそれぞれご案内します。

  1. 弁護士: 相続争いや法的問題が発生している場合に適しています。遺産分割協議や遺留分侵害額請求などの紛争解決に役立ちます
  2. 司法書士: 不動産の名義変更(相続登記)や抵当権の抹消などの不動産登記手続きを専門としています
  3. 行政書士: 預金や株式の名義変更、書類作成代行などを担当しています
  4. 税理士: 相続税申告や節税対策に精通しており、相続税に関する幅広い業務を担当します

具体的な相談内容や目的に応じて、適切な専門家を選ぶことが大切です。また、無料相談先も利用できるので、市町村役場や税理士会などで相談してみるのも良いでしょう。初めての相続や不安を解消しながら進めたい場合は、税理士に相談することがお勧めです。

4.相続税申告の流れと注意点

4-1.相続税申告手続きと期限に関する知識

相続税の申告について、必要な書類と手続きについて詳しく説明します。遺産を相続する場合、相続税の支払い義務が生じることがあります。申告には以下の手順があります。

  1. 相続税の申告書の入手: 相続税の申告書は、最寄りの税務署で入手できます。また、国税庁のホームページからもダウンロード可能です。
  2. 必要な書類の集め方:
    • 全員が必要な書類:
      • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
      • 相続人全員の戸籍謄本
      • 相続人全員の印鑑証明書
    • 不動産関係を相続する場合:
      • 土地: 登記簿謄本(全部事項証明書)、固定資産税評価証明書、地積測量図または公図の写し
      • 建物: 登記簿謄本(全部事項証明書)、固定資産税評価証明書、賃貸借契約書(賃貸の場合のみ)
    • 株式や投資信託を相続する場合:
      • 上場株式・投資信託の評価額を示す書類
    • その他の資産を相続する場合にも必要な書類が異なります。
  3. 申告期限:
    • 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告を行います。期限内に手続きを済ませることが重要です。

相続税の申告は、遺産の評価額が基礎控除額を上回った場合に必要です。期限を守り、スムースに手続きを進めましょう。

4-2.遺産評価や確定申告のポイント

遺産相続において、確定申告は原則的に必要ありませんが、特定のケースでは所得税の申告が必要となります。以下に、遺産相続で確定申告が必要になるケース毎に紹介します。

  1. 相続した遺産を売却した場合: 遺産相続で取得した土地や建物、株式などを売却し、利益が出た場合には、売却益に対して所得税がかかります。売却日の翌年3月15日までに確定申告を行う必要があります。
  2. 収入が生じる遺産を相続した場合: 賃貸マンションやアパート、駐車場などの賃貸不動産を相続した場合、相続発生日以降12月31日までの賃貸収入は所得税の対象とみなされるため、翌年3月15日までに確定申告を行います。
  3. 相続した遺産を寄附した場合: 寄附した団体から交付を受けた受領証を添付して申告すれば、所得税の寄附金控除の適用を受けることができます。
  4. 相続した遺産を換価分割した場合: 遺産をすべて現金化して分割した場合、売却益に対して所得税がかかります。相続発生後から12月31日までの収入とみなされるため、翌年3月15日までに確定申告を行います。
  5. 未支給年金・死亡保険金を受け取った場合: 未支給年金は一時所得として取り扱われ、所得税の申告が必要です。ただし、一時所得には50万円の特別控除があります。また、死亡保険金の課税は被保険者と保険金受取人の関係により異なります。

4-3.相続税の納税方法と納税義務者

相続税は、被相続人(亡くなった人のことをいいます)から相続や遺贈によって取得した財産および相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産(「相続時精算課税適用財産」といいます)の価額の合計額が基礎控除額を超える場合に課税されます。具体的には、以下の財産が相続税の課税対象となります。

  1. 現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか、貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの

基礎控除額は、次の式で計算されます:

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

正味の遺産額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告および納税が必要です。正味の遺産額は、遺産総額と相続時精算課税適用財産の合計額から非課税財産、葬式費用および債務を控除し、加算の対象となる暦年課税に係る贈与財産を加えたものです。

相続税の納税義務者と課税される財産の範囲は、以下のようになっています:

  1. 相続や遺贈で財産を取得した人で、財産を取得した時に日本国内に住所を有している人
  2. 相続や遺贈で財産を取得した人で、財産を取得した時に日本国内に住所を有しない人(日本国籍を有する場合とそうでない場合で異なります)
  3. 相続や遺贈で日本国内にある財産を取得した人で、財産を取得した時に日本国内に住所を有している人
  4. 相続や遺贈で日本国内にある財産を取得した人で、財産を取得した時に日本国内に住所を有しない人
  5. 上記のいずれにも該当しない人で、贈与により相続時精算課税適用財産を取得した人

詳細な情報は、国税庁のウェブサイトで確認できます。

まとめ:適切な対策で相続税を最小限に抑えよう

近年の制度改正により、相続税の対象となる人は倍増しています。

相続税が課税されるか否かは、相続財産が基礎控除を超えるか否かが分かれ目です。基礎控除は2015年から4割も削減されており、相続税の対象となる人が倍増した要因となっています。

小規模宅地等の特例や非課税規定などを上手に活用することで相続税の課税価格を下げたり、配偶者の相続税額の軽減等の規定を上手に活用することにより相続税額を減らすことが出来ます。但し、適用要件の判断が難しかったり、2次相続を踏まえると却って特例を使わない方が相続税を安く出来たり、又、養子などで相続人を増やすことで相続税を減らすことができる可能性もありますので、これらの相続税の計算や相続対策で少しでも不安があれば税理士に相談することをお勧めします。尚、佐藤純也税理士事務所では、相続税の試算サービスは無料で実施しておりますので、お気軽にご相談下さい。



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